「VTuber」と「Virtual vlogger」の分離

 VTuberのエントリを書くのは半年ぶりになってしまうのだが、折に触れて書きたいとは考えている。

 元々、VTuberや広義の「バーチャルタレント」については海外に視野を広げて調べようとしているが、今回は2018年に日本のVTuberが英国のBBCで取り上げられた際の原文に当たってみた。

panora.tokyo
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 日本でも、BBCで2回取り上げられたこと自体が当時のニュースになっている。
 こちら↓が1回目の元記事。

www.bbc.com

 ただ、日本のニュース記事の要約で伝わりにくいのは、これが「日本のVTuberの紹介」などではなく、英語圏のバーチャルvloggerと日本のVTuberを対比させた歴史」の記事になっている点だ。
 サムネイルのキズナアイも、英語の原文ではvloggerのように動画を投稿するバーチャルYouTuberという文脈で紹介されている。

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 また、日本では「キズナアイ以前のバーチャルYouTuber」としてAmi Yamatoニコニコ大百科の記事になるくらいには知られているが、BBCではさらに(バービー人形の)バービーVTuber以前にデビューしていたということで大きく扱っている。


Forest Fairy Halloween Makeup Tutorial | Barbie Vlogs | @Barbie

 この「Barbie Vlogs」のシリーズは2015年から137本投稿されており、今年の10月に至るまでコンスタントに投稿が続けられている。映像のクオリティもなかなかに高い。

 ちなみに本邦のバーチャルYouTuberランキングにバービーは登録されていないようだ。
 だが、登録の基準を満たしていないかというと、海外のAmi Yamatoは登録されているし、ホビー系のチャンネル(アイカツ)に間借りしているタイプの「ナナ」も登録されている。
 Barbie Vlogsの動画スタイルはAmi Yamatoに近く、間借りとは言え投稿頻度はどちらよりも高い(月2回ペース)わけで、仮に申請が行われたなら載らない理由も思い付かない。

www.youtube.com

 もしそうなると、バービー自体のチャンネルの登録者数は979万もあるのだから、いきなり登録者数ランキング世界一ということになるだろう。ほとんどの日本人が、こういう海外の存在を知らないままだと言える。

YouTuberとvloggerの違い

 そもそも「vlogvlogger)」という言葉が日本人にとって馴染みがなく、理解から遠い部分もあるだろう。

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 「YouTubeに限定されない」という以外の意味でvloggerを定義することは難しく、変動してきたようなのだが、「Webログ(ブログ)のビデオ版→video blog→vlogという由来通り、「投稿者の日常を動画で伝える」という地に足の付いたニュアンスが大事にされているようだ。
 その点で、Ami Yamatoやバービーの動画スタイルはvloggerという言葉の雰囲気にマッチしている。

 逆にYouTuberやVTuberの動画は、芸人であったり講師であったり、ストリートパフォーマーのような職業的性質を求められやすい気はする。

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VTuber」と「virtual vlogger」の乖離と分断

 VTuberにおいて、特にその差が目立つ要因として、もちろんバーチャルなモデルを用いる「形式」の差があるのだろう。
 VTuberの主流はモーション技術を用いた「リアルタイムアニメーション」だが、virtual vloggerの動画は「アニメーション」のように映る。

 VTuberの場合、「演者が生きて考えている」ことが明白なので生活を見せる必要はないが(雑談で話してくれることはある)。
 逆にvirtual vlogger「実際は生きていない」と見なされるため、リアルな背景で生活しているように見せるメリットがあり、それがvlogという手法に繋がる。

 こうしたvirtual vloggerの性質は、日本のVTuber界が無関心を決め込んでいるもう一方の「バーチャル」であるバーチャルヒューマン、バーチャルモデル、バーチャルインスタグラマーなどの文化と接続できるものだ。

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 おそらく、海外ではその潮流こそが主な「バーチャル」の利用法であり、日本のVTuber文化は異質なのだろう。

 中国でも実はそれは似たようなもので、先月アップされた「バーチャルアイドル発展史:バーチャルアイドルに明るい未来はあるか?」という中国の記事ではボーカロイド初音ミクを原点としつつ、班長」小艾という、どちらかというとバービーに近い雰囲気のキャラクターをバーチャルにおける重要な試みとして紹介している。

 「自分の、また別の自我であるアバターに出会って、新しい世界を経験する」という世界観を持つ韓国のガールズグループ「aespa」が見せる「アバターのメンバー」の姿も、バーチャルヒューマンの潮流に乗ろうとしたものに見えるのだ。


aespa 에스파 ‘MY, KARINA’

  • 日本語字幕あり

まんがと絵物語の違いにも似ている

 ところで、日本の漫画史の研究者なら、こうしたVTuberとVirtual vloggerの関係は「まんが」絵物語の違いに似ていると感じられると思う。

「沙漠の魔王」完全復刻版

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  • 作者:福島 鉄次
  • 発売日: 2012/08/10
  • メディア: コミック

 一般に、絵物語には「コマ」や「吹き出し」などがなく「まんが」にはそれらの要素がある、という構造的な表現形式で呼び方が変わると考えられがちだ。
 だが、実際にどう呼ばれてきたのかを遡ってみると、コマや吹き出し絵物語でも見られる要素であって、そこは決定的な違いではなかったようだと分析されている。

 では、どういう基準があったかというと、感覚的に絵柄(絵のスタイル)を指して呼び分けていたのではないか、という見方がある。
 つまり頭身の高い、比較的写実的なタッチの絵柄は「絵物語」に分類されやすく、ディズニーアニメのような丸っこいタッチの絵柄だと「まんが」に分類されやすい。
 主に絵柄を指すことになりやすい、という意味では「劇画」が「劇画タッチの絵」の意味で使われやすいことに近いだろうか。
(このあたりの議論は『マンガ視覚文化論―見る、聞く、語る』所収の岩下朋世「「マンガと見なす」ことについて―「体験としてのマンガ」と少女マンガ様式」などにある。)

 ただ、単なる絵柄の違いだけでも片付けられず、そのタッチに付随して表現形式が変化していったのではないか、という視点を持つこともできるだろう。

 日本のVTuberは、演者がリアルタイムで生きているのか、ライブ配信をするのかという以前に「日本のオタクのキャラクターコンテンツの絵柄」こそが特徴だ。写実的なモデルが皆無ではないものの、それらは例外的に扱われる(それこそVTuberでもバーチャルヒューマンでもない、残るバーチャルの文化のひとつである「アバター文化」に入りやすいのではないだろうか)。

www.youtube.com


 そう考えてみるなら、今海外で受けているVTuber(特に英語圏向けでヒットしているHollolive ENなど)も、あくまで「日本のオタクコンテンツの延長上で好まれている」のであって、世界的な潮流はまた別にあるのだと認識すべきなのだろう。