TVアニメ初のVTuber「天見浩司」はなぜ活動できるのか

 このブログも8ヶ月間更新していなかったので、シンプルな記事でリハビリしたいと思う。

 タイトルにあるVTuber天見浩司」について調べたことを記録していきたいのだが、とりあえず事実を並べておこう。

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世界初って、本当に?

 まず気になるのは「テレビアニメの主役がVTuberに」というケースにおいて「世界初」と称している部分だろう。
 そう簡単に言い切れるのか? という気もするのだが、いざ検証してみると、実際「2018年4月16日」より古い例を探すのは難しそうだと分かる。

 何より「テレビアニメの主役」という条件でかなり限定されるのだが、これを「テレビアニメのキャラクター」に緩めたとしても前例は探し出せなかった。


【ゴルシ様爆誕!】ぱかチューブっ!始まるぞよ♪@ウマ娘

 2018年頃のVTuberにそこそこ詳しい人なら「ゴールドシップは?」と思い付くかもしれないが(2018年3月25日動画初投稿)、ゴルシは「ウマ娘」というIPの宣伝担当としての活動が先であって、アニメ『ウマ娘』のゴールドシップは後から出てきたものだ。
 本来リリース予定だったゲーム版が未配信状態なので、アニメ原作のキャラだと思われてそうだが、厳密には違う。


【自己紹介】はじめまして、ハッカドールですっ!【バーチャルYouTuber】【#001】

 2018年3月31日に初投稿の「ハッカドール1号」も似たケースで、『ハッカドール THE あにめ〜しょん』というアニメは作られているものの、VTuberとしてはニュースアプリとしての「ハッカドール(2019年8月15日サービス終了)に由来するだろう。


【自己紹介】初めまして!KOFオールスターの麻宮アテナです!

 ちなみに「ゲーム原作、CVが公式声優」という点で思い出すのはKOFシリーズの麻宮アテナだが、こちらは2018年8月3日が動画初投稿と、天見浩司よりデビューが後になる。


♯1バーチャルアイチューバー「ナナ」~みんなからのおたより答えます!~

 『アイカツ!』シリーズの「ナナ」はどうか? というと初投稿が2018年7月12日だし、ナナは「『アイカツフレンズ!』のココに憧れているバーチャルアイチューバー」という設定で、アニメ本編には登場しないキャラクターだ。

 また、アニメ作品のプロモーションとしては「YouTubeにチャンネル開設するほどではないが、企画として声優にVTuberっぽいことをやらせる」というケースがある。そのなかで早い例を探せないだろうか。


【7月22日】ワンピースでVTuberやってみた【ONE PIECEの日記念】

 例えばONE PIECE声優の「VTuberやってみた」企画は2018年7月21日が最初で、やはり天見浩司には間に合っていない!
 ちなみにその2日遅れで『邪神ちゃんドロップキック』もVTuber企画を声優にさせている。


邪神ちゃんねるV第1話

 さらに小松未可子が『revisions リヴィジョンズ』のミロ役でVTuberとなったのは2018年11月20日のニコ生が初お披露目だったようだ(YouTubeの初投稿は12月4日)。

prtimes.jp
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 他にも『ヤッターマン』(ほとんど別キャラになってるが……)にせよ、『北斗の拳』のハート様(原作は漫画だが)にせよ、チャンネル開設は2018年の後半以降であり、思ったよりも天見浩司の「4月16日」というスタートは業界をかなり先んじていたことが分かる。

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 ちなみに2018年の4月というと、VTuber事務所のENTUMが開設されていた月で、にじさんじゲーマーズやホロライブ一期生、アイドル部などが活動開始する直前、というタイミングである。
 そう思うと、ちょっと遠い目をしそうになる時期から活動を始めていると言えるだろう。

天見浩司の運営の謎

 さて、ここまで他のケースを色々と並べてみたが、そもそも「天見浩司」は何のキャラクターなのだろうか。
 TVアニメ『雨色ココア』シリーズの主役キャラ、ということだが、正確には「シリーズに共通して登場する主要キャラクター」というところで、実際は「主人公」と区別されている。

 さらに言うとアニメの『雨色ココア』にも「原作」が存在する。
 元は「声優ボイス電子マンガ作品」というジャンルで2013年から展開し、2014年からラジオ番組を放送、2015年からショートアニメを放送し、これは「電子マンガ版のスピンオフ作品」という位置付けのようだ。

 つまり、そのスピンオフ作品であるアニメ版『雨色ココア』から生まれたVTuberとして世界初、という少々ややこしい成り立ちにもなっている。

 また、これまで挙げた「原作付きVTuber」らと比べて気付くのは、その多くが短期的な活動に留まっていたのに対して、天見浩司はコンスタントに動画投稿を続けられているという事実だ。

 原作付きVTuberの多くが継続性を保てないのは、単純なコストパフォーマンスの問題でもあるだろう。
 そもそも「宣伝」という目的のためなら一時的な活動で充分だし、ギャラの発生するであろうプロの声優を起用している以上、宣伝期間を超えた活動には独自のマネタイズを用意しなければコストに見合わなくなる。
 しかし、現在のVTuber界はチャンネル登録者数や再生回数がそう簡単には伸びないもので、有名な原作付きだろうと人気声優を起用しようと、継続的な話題には繋がりにくい。例えば『シスター・プリンセス』を原作とする「バーチャルYouTuber可憐」は話題作りやpixivFANBOXを利用したマネタイズなどがうまく回っている、珍しい成功例だ。

sister-princess20th.com

 では、「堀川りょう」という大物声優を起用した天見浩司はなぜ長期的に活動できているのか……という疑問が湧くのだが、よく調べてみると結構シンプルな構造かもしれないと思えてくる。
 まずそもそも、『雨色ココア』の原作を持っているのは「株式会社IAM」という企業なのだが、そのIAMグループ傘下の声優養成所「インターナショナル・メディア学院」の学院長が堀川りょうなのだ。
 また、堀川りょう自身が代表取締役である所属事務所「アズリードカンパニー」は「IAMエージェンシー(IAMグループの芸能プロダクション部門)」と「インターナショナル・メディア学院」と関連会社という関係になっている。

 そしてインターナショナル・メディア学院はTVアニメの『雨色ココア』に出演できるオーディションを学院生に受けさせており、TVアニメ出演という実績作りの場にもしているようだ。

 自分の会社で作っているアニメのプロモーションを付属養成所の学院長自ら行っているようなもので、ギャラ、というものを支払う対象が存在していない、つまり本人が辞めようと思わないかぎり続けていられる、という形態なのかもしれない。

 百人百様、様々な運営方式が存在するVTuberの世界だが、これもまた珍しいケースとして覚えておくとよさそうだ(というか、アニメ史/声優史として見てもニッチなポイントかもしれないが……)。


みんなへお願い

 余談であるが現在、このチャンネルは「天見浩司」というよりも「ベジータ役や服部平治役としての堀川りょう」を利用したメッセージを伝えるチャンネルのようにもなっているので、普通に堀川さんのファン向けのコンテンツになっていると思う。

*1:YouTubeの投稿日時はアメリカ標準時間なので日本の日付と微妙にズレている場合もあるが、この記事ではYouTubeに表示された日付を優先して記載する。