ぼくは音ゲーをやり込んだプレイヤーとは自称できない。なので、これは基本的にコメントを募集する記事である。
音ゲーはいくつかのタイトルを部分的に触ってきた程度だが、一応『パラッパラッパー』(1996年)や『beatmania』(1997年)はリリース時から遊んでおり、いわば黎明期から音ゲーマーとの交流があった程度の歴史感覚は持っていると思う。
音源に「音を足す」意味
さて、コナミの「BEMANIシリーズ」はDJを模したビートマニアに始まって、ギター(『GUITARFREAKS』1999年)、ドラム(『drummania』1999年)、ピアノ(『KEYBOARDMANIA』2000年)など、コントローラーを楽器に見立てたものが代表となり、プレイヤーの操作が「演奏」の一部となる気分を楽しむことができた。
逆に言えば、プレイヤーが操作を放置すれば「音源の一部が欠ける」ことになるし、プレイミスをすれば楽曲が破綻する。
コナミより早い『パラッパラッパー』も、伴奏に合わせたラップ部分をプレイヤーが担当していた。
しかし、ボタンが一種類しかないリズムゲームも可能だし、BEMANIシリーズの一種でもあるダンスゲーム『Dance Dance Revolution』(1998年、以下「DDR」)のように「プレイヤーの操作で楽曲が変化しない」システムのゲームも発生することで、「音楽を演奏する体験」という音ゲーの原点は枝分かれしていくことになる。
DDRから派生した「Dancing☆Onigiri」(2003年)や、ニンテンドーDSの『押忍!闘え!応援団』(2005年)から派生した「osu!」(2007年)のように、キーボードやタッチデバイスに適合したゲームがその後のスマホゲームに繋がっていったと思われるのだが、その多くは「プレイヤーの操作による音がなくても成立する楽曲」を音源として扱っている。
つまりサントラに収録されるような音源が、ほぼそのままの形でゲーム内で流れるのだ。
ただ、現在のスマホゲームの多くは、さきほど参考に挙げた記事でも分かるように「キー音が鳴らない」代わりに「判定音」などと呼ばれる操作音が鳴る。
楽曲に対して、数種類のリズム音を合わせるシステムとなるのだが、この「楽曲に付け足される音」というのは「音楽にとって何なんだろう」と少し前からよく考えるのだ。
※このあたりから正式なゲーム名がやたら長いゲームが増えてくるので普通に略称で呼んでいきます
スクフェス(2013年)の判定音は「シャンシャンしよう」と言うように「カラオケのシャンシャンするやつ」のイメージなのだろうが、アイドルのステージでカラオケのシャンシャンするやつは、普通使わないと思う。
シャンシャン鳴らすのはデレステ(2015年)も同じで、アイマスシリーズを遡るならリズムゲーム要素を取り入れた「LIVE FOR YOU!」(2008年)が「ライブ中のコール」をイメージしていたようだが、それがライブの再現になっているかというと違和感が強かった。
現実において、「ライブの演奏中は黙って聴いてほしい」と考えるかどうかはアーティストの気分によるだろうが、アイドル曲の場合はコール&レスポンスなど、大声を出すファンの参加を受け入れていることが多い。
しかしCD音源などは、いみじくも「完成した音楽」をリリースしているわけで、「なぜ音を足す意味があるのか?」という、なんだか素朴な疑問も感じてしまう。
【鬼滅の刃】LiSA - 紅蓮華 フルを叩いてみた / Demon Slayer Kimetsu no Yaiba Opening Full Gurenge drum cover
花澤香菜さんの声が出るドラムで「紅蓮華」演奏してみた【鬼滅の刃】
例えば動画投稿でよく見かける、オリジナル音源をバックにギターやドラムで「弾いてみた」「叩いてみた」をやるパフォーマンスは、「楽器を厚くする」などと表現できるだろう。
『太鼓の達人』(2001年)のプレイで鳴らす音が、この「叩いてみた」に近いかもしれない。
ただ、自分は音楽に詳しくないし、「オリジナルの楽器編成を後から増やす行為」が音楽的にどう評価されるのかはよく分かっていない。
聴いてみて「ドラムが強調されててカッコいいなー」などと感じはするのだが、だったら商業アルバムのなかに「ドラム強調ver.」とかがもっと沢山入っていてよさそうなものの、普通は一種類の編曲で完結しているものだ。
「主役がドラムになっちゃってるから」など、色々説明の付けられる問題なのだとは思う。少し話が脱線しそうになるが、「弾き語りやカラオケの聴き手が手拍子を打つ」のはよくある光景なものの、ビートルズがよくやったように手拍子を入れた音源というのも特別な曲でもないかぎりあんましないよな、と。参加者との一体感が無いと意味がない音だからなんだろうか。
ちなみに『押忍!闘え!応援団』はJPopの楽曲に対して応援団のエールとドラムとホイッスルの音を鳴らすという、「音としてはやかましいが応援団の応援としては正しい」と思える納得感があって大好きなゲームである(特に「2」)。
「聴く」のではなく「遊ぶ」意味
もちろん音ゲーは「聴かせる音楽」という以前に「遊ぶ音楽」なのだから、操作によってどんな音が鳴るかよりも「操作する動作」にこそ意味があると言える。
これは「楽器演奏者の立場になって音楽を聴く」スタンスにも似ていて、音楽通には「楽器で曲を聴く」という聴き方がある。単に音楽を聴くのではなく、それぞれの楽器がどう演奏されているかをイメージしながら聴いたほうが奥行きを感じられて面白い、というわけだ。
イラストを描いた経験があると、ただ絵を見るだけでなく「この線を引くのは大変だぞ」などと自分でペンタッチを想像しながら感動できることにも似てるだろうか。
その場合、もちろん演奏に合わせて手を軽く動かしながら、あるいは心のなかで動かしながら演奏を追体験するだろう。
つまり「曲に合わせて自分が動く」こと自体が面白さであって、音を鳴らすのはその副産物でしかない。
いい曲を聴いていると鼻歌だけでなく、指や足で軽くリズムを取りたくなってくるものだが、あれに楽器演奏並みの複雑さを要求されるのがリズムゲームなのかもしれない。
それにリズムゲームを遊んでいると、システム的に「判定音」が設定されていなくても結局、コントローラーを激しく叩く時に「タンッ、タンッ」と物理的な音が出るものだ。だからプレイ中、(DDRのようなダンスゲームじゃなくても)「まるでタップダンスしてるみたいだな」と自覚することは多い。
リズムを取る身体表現、と言うとロックやヴィジュアル系のライブではヘドバンやスタンピングの文化が発達しているが、逆にアイドルやアイドル声優のライブ現場では「迷惑だから激しく動くな」というマナーが徹底されたおかげで、声援を張り上げるコールが強調されて残ったという経緯もあるようだ。
そして上半身のみの小さな動きとして、サイリウムを振ったり、ステージ上の振り付けの一部だけコピーする「振りコピ」の文化がある。
今スマホでよくある音ゲーの「譜面」は、例えばボタンが5つ並んでいたとしても「判定音が全部一緒」なので、どんなエグい譜面であっても出力されるのはリズムでしかなく、「複雑であればあるほど複雑なメロディを奏でられる」といった、楽器演奏の再現にはならない。
ただ難易度に従って、運指しにくいよう配置しているだけだ。その並び方に音楽的な意味は、本来ない。
譜面に愛を感じる…☺️♡
— 22/7 帆風千春 (@c_hokaze227) 2020年4月30日
生放送の時間で、お試しプレイしていた時より、ずっと前にテストプレイさせて頂いた時から、サビのところ、振り付けと連動していたんです。ありがたいなぁ…。#ナナオン #ナナニジ https://t.co/PbtF7e0ec0
そう考えると、『22/7 音楽の時間』(2020年)における「原曲のダンスの振り付けに合わせて譜面を作る」というデザインは、こうした音ゲーの流れにとって自然なものかもしれない。
譜面を「ダンスの振りコピ」にできるのは、「振り付けのある原曲が多い」というアイドルグループ発の音ゲーだからでもある。いくつか例を見てみよう。
せっかくなので勢いで動画も用意しておこう。ノーツが「振り付け」になってことがすぐに分かる譜面のひとつが「シャンプーの匂いがした」(1/2) pic.twitter.com/bLmysswAEJ
— 泉信行 (@izumino) 2020年9月22日
(2/2)Bパート pic.twitter.com/MnwRAsbi5X
— 泉信行 (@izumino) 2020年9月22日
これも分かりやすかった。NMB48のオーマイガー!の「キックを右に4回入れる振り付け」がEXPERTの譜面では「フリックを右に4回(フリックは全方向可能だが位置的に右フリックになりやすい」になってる。
— 泉信行 (@izumino) 2020年9月22日
曲調よりも振り付けを踏まえないと出てこない配置だろう #ナナオン pic.twitter.com/35XNzXwBuk
スライドノーツやフリックノーツの入った音ゲーの歴史については網羅的な知識がなく詳しく言えないが、「アイドルの振りコピ」的な譜面はミリシタ(2017年)が先行して実装していたようだ。
ミリシタも一部はそうですね。ミリシタの場合、高難易度は音ゲープレイヤーを満足させるような譜面設計になっていますが、下から2番目の難易度である4MIXは振り付け(というかMV)とのシンクロを重要視して設計されていると聞いています
— たなごん@虫エ色ドリ一マ一応援プロ (@tanagon1003) 2020年9月22日
参考: https://t.co/IxL2dryZ9u
- 2020年10月8日コメント追加
弊blog記事が参考にされてた。ありがとうございます。振りコピ譜面に関しては源流は「パラパラパラダイス」「初期jubeat」「初期maimai」「ダンエボ」辺りにありますね
— はるく (@radio613) 2020年10月8日
音ゲー(リズムゲーム)の変遷で見る、「プレイヤーが音を鳴らす意義」 - izumino’s note https://t.co/4Bf3MpeZHf
改めて、それは何の音なのか
というわけで、音ゲーを単に遊んでいるだけでも色々考え込んでしまうのだが、これはゲームのナラティブの問題にも繋がっていると思う。
パラッパラッパー、BEMANIシリーズや太鼓の達人などは「プレイヤーの操作≒PC(プレイヤーキャラクター)の行動」の構造がかなりの近さで成立している。だが、今のスマホゲームの多くはストーリーモードの主人公をPCとしながらも「誰がライブ中に音を鳴らしてるのか」がかなり謎だからだ。
その割に、高スコアでクリアするとゲーム内のキャラクターがPCに感謝してくれたりする。しかし「頑張ったのは音ゲーのプレイヤーの自分であって、PCはライブ中に音ゲーをやってたわけじゃないんじゃないかな」と思うのが正直なところ。
このあたりを踏み込んで考えてみるのも無駄ではないと思う。