【スト6】シリーズ初のアフリカ系アメリカ人女性キャラ「キンバリー」の話

出遅れ気味な格ゲーニュースの話

 2023年リリース予定のストリートファイター6』で使用できるキャラクターの情報は、今年から徐々に公開されている。その6,7名めにあたる2人の女性キャラクターが「EVO2022」の会場で、8月8日に発表された。

 その片方がキンバリー(Kimberly)という、武神流を使う黒人(アフリカ系アメリカ人)少女だ。

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 正直なところ、日本の主要プレイヤー層からの反応は芳しくないと思う。ネガティブな感想にまで行かないにしても、ポジティブな感想はこれといって聞かない。悪く言うほどではないにせよ、既存の「武神流キャラ」との比較をせざるをえないし、前向きに評価する理由を見付けることが難しいのかもしれない。

 だからEVOの発表時は、スト4時代からの人気キャラだというジュリと同時の公開だったから盛り上がりのバランスが取れていたと言えるし、そもそもGUILTY GEAR」シリーズのブリジット参戦や、SNKによる餓狼シリーズ復活の報などに押されてインパクトが薄くなっていたとも言える。

 ブリジットに関しては、ユーザー層の垣根を越えたネット議論にまで白熱していたので、ここで語ることはしないが、お隣のタイトルが盛り上がっていたおかげなのか、キンバリーに関する日本ユーザーの話題は静かなものだった。

ポリコレなのか、マーケティングなのか

 前向きな理由を見付けるのが難しいのかもしれない……、と先程述べたが、「メーカー(カプコン)が何を魅力だと考えたのか分からない」と疑いはじめると、自分の知っている範囲で答えを導き出そうとしてしまうのが人の性だ。

 その手っ取り早い「理由」のひとつがポリティカル・コレクトネスというやつで、特にハリウッド映画や洋ゲーを巡る議論に普段から接していると、何かと「人種や性別のバランスを取ろうとさせる風潮」を意識しやすいだろう。

 ただ、その観点で言えば見逃してほしくないのは、元々ストリートファイターという格闘ゲームのシリーズが、どうもアメリカでは黒人コミュニティの支持が根強いらしい、という現実の側面だ。

 その問題を考える切っ掛けとして、ときど氏とハメコ。氏が2017年にアメリカの大会で見てきた感想を語ったものがある。少し引用したい。

ハ「その中で、やっぱりその向こうのマイノリティの人達とかが、
 その強い人達が出てくるとその人達を応援とか、構図とかEVOとかで
 会場とかで見ると、もう明らかに分かるんだよね」
 「そういうその、人種問題とかを全部はらんでるだなって事が」

〈中略〉

ハ「俺が言ってるマイノリティってのは、多分その人種とかも込みの」
 「アメリカには確実にはいるんですよマイノリティの人達が」
 「そういう人達もできる、そういう人達が、ぶっちゃけ白人の人達と
 戦える競技、ゲーム競技なんだよね」
 「そういうのが結構見えた、見えるEVOとか行くと見える、マジで」
 「そういうのも込みで流行ってたりするから」

〈中略〉

 「女性率とかヤバイからね、Evolutionのスマッシュのコミュニティって」
 「それと、ストリートファイターとか比較してみ」
 「全然いる人達が違うから」
 「そういうのもね、文化的に見るとね結構おもしろい」
と「論文一本書けちゃいますよもうこれ~」

〈中略〉

と「うん」
 「やっぱなんかその、アジア系が勝ったり」
 「白人の凄いプレイヤーとかって、まぁいるんだろうけど
 数で言うとちょっと少ない気がするなぁ格ゲーは」

ときどハメコが感じた、アメリカにおける格ゲーコミュニティ : 帝聖速報

 偏見になりやすいと思ったのか、2人はややボカして語っているが、要するにアメリカのストリートファイターは黒人ファンが多いようだ、という体感が語られている。

 確かに、日本から欧米のスト5シーンを見ていても、名の知れたトッププレイヤーというと不思議と黒人プレイヤーの比率が高い。
 それ自体は、単なる偶然かもしれない。だがそもそも、強豪プレイヤーにかぎらずファンコミュティに「マイノリティ側の人種が多い」という印象を抱くようなのだ。

 もし、カプコンのスト6開発チームが米国市場を最も重要視しているのなら(※それも日本ユーザーからそういう印象を持たれているというだけで、実際の戦略は定かではないが)、その支持層の人種構成を考慮しながらゲームを制作するのは、メーカーとして当然の努力だとも言える。

 それに元々、「世界中の強い格闘家と旅して闘う」というコンセプトを持つストリートファイターのシリーズは、「各国を代表するキャラクター」を登場させる意義を強く持っている。

 人気キャラへと育ったジュリも、「韓国人の格闘家を作ろう」という他国を意識したプランが先にあってデザインされたキャラだった。
 スト5の新キャラクターで、「日系ブラジル人女性」であるララの場合、海外のサイトではブランカに代わる国の代表にもっと相応しいキャラクターを作ってほしいとブラジルのカプコンに提案されて」生まれたのだと (要出典付きだが)書かれている

 ララは日本のプレイヤーにも比較的受け入れられているキャラクターだと思うが、「実は飛行機事故でブラジルに落ちただけの、ブラジル人でもなんでもない英語圏生まれの白人」という設定のブランカに対し、ブラジル人が「ちゃんとしたブラジル代表キャラがいてもいいだろ!」と抗議したとしても、「そりゃそう思うわ」と同情してしまうところがある。

 同じことは、アフリカ系アメリカ人にも言えるはずだ。
 それでキンバリーの発表があった直後、Twitterで英語ユーザーの反応を検索してみたのだが、実際に黒人のファンコミュニティを中心に、歓迎ムードで盛り上がっていたのは確かだった。

 黒人ではない第三者が、お節介な倫理感で評価しているような雰囲気でも全くなかった。
 だからポリコレを狙っているという意図はカプコンにも本当になくて、ただただマーケティングやターゲッティングの結果として「うまく刺さった」だけにも見える。

 「初のアフリカ系アメリカ人女性だから」という大義名分だけで喜んでいるわけでもなく、デザイン的にも充分気に入られているようでもあった。
 興味深かったのは、口々に「早く黒人女性による本物のコスプレが見たい!」と言う、コスプレ需要もなぜか高かったことだ。
 そして実際、リリース前のゲームだというのに早速、再現度のやたら高いコスプレがすでに行われている!

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 ちょっと日本人には伝わりにくいくらいの興奮が向こうにはあるようなのだ。

キンバリーは本当に「相応しい」バランスなのか?

 ただ、第三者である日本人としてキンバリーを見て思うのは、アフリカ系アメリカ人の女性キャラクターを作るのはいいとして、何か「バランスを取ろうとして逆にアンバランスになっている」ような違和感もあるということだ。

 キンバリーは「女性キャラとして」初だから話題性が高くなっているが、アフリカ系アメリカ人の男性キャラならば、むしろ定番ポジションとして格ゲー界に存在し続けている。
 そして、定番のキャラクターには、常に「ステレオタイプを描いている」という批判が付いて回るものだった。

 海外のサイトによる意見を参考にすると、ゲーム内の黒人の多くはボクサー軍人であり、ヒップホップレゲエといった、アメリカの貧困層と関わり深い職業とカルチャーでキャラ付けされるイメージを持たれている。
(その点、「ナイトの称号を持つ黒人ボクサー」のダッドリーがイギリス人で、国際教育を受けているエレナがアフリカ人であったり、ストシリーズにおける変化球はアメリカ人以外に多い。)

 ここでまた、ときど・ハメコ両氏がアメリカで感じていたような、人種的マイノリティの問題に戻ってくると言える。

 その目で見るなら、キンバリーの設定はどうだろう? おそらく、カプコンのスタッフはこの「ステレオタイプ批判」は知った上で、慎重に作成したように思われる。

 まず大枠の設定として、「ガイの押し掛け弟子の武神流忍者」という、和モノ好きアメリカ人のキャラクター性はいいだろう。SNKのギースしかり、和洋折衷のキャラクター性は外れにくいものだ(ストシリーズだとソドムとかになるが)。


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 その一方、スト6の主要なデザインコンセプトであるグラフィティ・アートの要素を、キンバリーに担当させる必要はあったのだろうか? とは思う。

 グラフィティ・アートはもちろん、ヒップホップ文化の一部なのだ。そこでカプコンは、キンバリーに「貧困層イメージ」が結びつかないよう、妙に念入りなプロフィールを設定していることが分かる。

武神流第39代目伝承者・ガイの押し掛け弟子。
ごく普通の家庭に生まれ、学生時代は超優等生。
飛び級で大学を卒業後、故あってニンジャを志した。80年代のポップカルチャーが大好き。

KIMBERLY | STREET FIGHTER 6(ストリートファイター6) | CAPCOM

 「ごく普通の家庭」出身と当たり前のことをわざわざ書いて、大学を飛び級し、あえて「80年代のポップカルチャー」というレトロ趣味の扱いでヒップホップ文化を直接的ではなく好んでいるというのは、どうにかステレオタイプ貧困層のイメージから遠去けたかったのだろう、と。
 さらに「陸上競技やチアリーディングが得意」というアメリカのスクールカーストを連想させる出自まで加わってくると、そこまで言わないといけないほどヒップホップのイメージが低いのかと思うくらいだし、だったらグラフィティ・アートの担当キャラにしなくてもよかったろ、とも思う。

 そのため、マーケティングとしては上手く行きそうかもしれないが、全体として見るとバランスを取るための要素を多方面から盛り込んだせいか、逆にチグハグさの残るキャラクターという印象になっている(KOF15のイスラとグラフィティ属性が被ってしまったのはタイミングが悪いだけではあるが)。


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 同じく非白人の新キャラであるジェイミーが、「酔拳ブレイクダンス」という、(元々、酔拳に含まれる「地功拳」の要素がブレイクダンスと違和感ないのもあって)シンプルな足し算で成立していることからすれば、例えば「忍術+アメリカの体育会系」や「忍術+80's」のどちらかでも充分よかったと思う。
 第一、「ヒップホップのイメージを打ち消すために体育会系要素を入れているのでは」と感じさせること自体、武神流の新キャラを作ることと直接関係のない都合じゃないか? という気がする。ゲームディレクターは「忍者+ポップスター」という2要素の足し算だと考えているようだが……。これってポップスターなんだろうか?

 だからキンバリーは、分かりやすく「配慮」したキャラではないと思うのだが、アメリカで受け入れられるための要素をとにかく付け足していった結果、向いている方向が日本人には分かりにくいキャラになったのかもしれない。