【VT】リアルガチ料理動画の歴史を追う

※投稿後の17時間後に「宗谷いちか」と「周防パトラ」について加筆
※2018年12月3日に「シスター・クレア」について加筆

 リアルガチ料理動画とは何だろう? それは「バーチャルYouTuberがリアルでガチに料理する動画」のことだ。
 普通に考えればそもそも「料理」はリアルに行うものであり、そこへあえて「リアル」と付け足すことにバーチャル感が表されている。

 そこで今回は、このリアルガチ料理動画の歴史を自分が知るかぎりに振り返って時系列順に追ってみたいと思う。*1
 いずれも「早い者勝ち、やったもん勝ち」という発想の勝利の世界であり、互いに影響関係があろうとなかろうと一日でも早く公開できた人たちは自慢してかまわないはずだ。

 「VTuberがリアルに料理するってなんだよ」と思う人もいるかもしれないが、それぞれに「これがバーチャルYouTuberなんだよなあ……」という感じを得られればいいのだと思う。

2018/01/25 ヨメミのハイポーション作り


【バーチャル初】ハイポーションを作ってみた結果が…


 まず取り上げるのは料理動画ではなく「飲料」を作る動画なのだが、参考資料として紹介すべきだと思う。
 「ヨメミ」バーチャルYouTuberであると同時に、「リアル動画投稿者と同じことをする動画」を好むYouTuberでもある。
 元々ハイポーションを作る動画は10年以上前から「ニコニコ動画」に存在し、そのマネをする動画も多かった。

 ヨメミのハイポーション動画は、VTuberの動画に実写映像を合成させる点でも早い時期のものであり*2、「あたかもVTuberがリアルに手作業をしている」ように見える点で画期的だったと言えるだろう。
 とはいえ、実際は動画内でも説明されている通り、「ARアプリでもあるヨメミが現実側の人間(ダーリンと呼ばれる動画視聴者)を操って動かしている」という設定になっており、VTuberはリアルではなくデジタルな存在である、という世界観は維持されている。

 なお、ヨメミのモデルが3D化した直後(2018年8月12日)に投稿された動画も「ドライアイス爆弾を作る」という動画であり、いかにもリアルYouTuberと同じことをしたいというこだわりが窺える。


【実験】ドライアイス爆弾でエイレーンさん爆発…!!【検証】


 3Dモデルになっても「ヨメミが現実側の人間を操っている」という世界観は相変わらずなのだが、撮影技術的には実写の「目線カメラ」感が強調されているところを注目すべきだろう(これは後で紹介する動画の伏線)。

2018/02/14 ぽんぽこの甲賀流CGチョコ作り


ぽんぽこ直伝!チョコレシピを伝授するの巻!【バーチャルYouTuber】


 続いては、皆さんご存知であろう、甲賀流忍者ぽんぽこ」による甲賀流CG動画である。
 そもそもぽんぽこは、2018年2月から2Dモデルと組み合わせた実写映像を「甲賀流CG」と称し、実はリアルの映像ではなくバーチャルYouTuberと同じデジタルな世界だ、ということにして「実写でもバーチャルなのだ」と言える世界観を初めて正当化できたVTuberだった。

 その延長でチョコ作りやソーセージ作りなどの動画があり、「POCO'sキッチン」というシリーズも生まれているが、リアルな「料理」ではなくあくまで「CGモデリング」の動画ということになっている。
 いずれもぽんぽこ本人と思しき手が映り込んでいるのだが、第三者目線のカメラや、固定カメラによる撮影になっている点を一応覚えておこう。

2018/05/1 大谷さんの食べ物文化研究

 さらにVTuberの概念を揺るがすVTuberとしても知られているのが「大谷さん」である。


ごはんを作る食文化研究系VTuber『大谷さん』です


 ぽんぽこ以上に、「リアルに料理している人」が露骨に映り込むスタイルなのだが、ここでも第三者目線のカメラや固定カメラの撮影になる点を覚えておこう。

2018/07/07 丸山あかねの目線カメラ魚捌き

https://abema.tv/video/episode/26-55_s1_p1abema.tv


 実は今回このエントリは、まだ知らない人にもこれを紹介したくて書いていたりする。
 「22/7計算中」は「デジタル声優アイドル」と称されたアイドルグループ「22/7」の冠番組で、丸山あかねというメンバーが「目線カメラの撮影による魚捌きのロケ」を第1回放送で見せているのだ(AbemaTV内で無料視聴可能)。

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  • この後で刺身を実食もしている

 と、言うとそれはVTuberなのか? と思われるかもしれないが、同じメンバーである藤間桜が6月14日にVTuberデビューしており、しばらく後に河野都」「佐藤麗華」「戸田ジュンという他のメンバーも同様にチャンネル開設している。
 「22/7計算中」に出演するメンバーたちもYouTubeの動画と変わらない動きをするキャラクター(モーションキャプチャーによるフルボディトラッキング)となっており、一種の「YouTube外でVTuberの延長上にある活動を行うバーチャルタレント」を体現していると言えるだろう。
 番組のカテゴリがなぜか「アニメ」になっているのはツッコミどころなのだが……。

 そこで丸山あかねのロケ動画の話に戻ると、TV局のバラエティ番組と同じ作り方をしているだけあって、タレントの頭部に「目線カメラ」を被せて撮影する、という手法を採れた点にこれまでのVTuberにはない特色があった。
 「目線カメラ付きヘルメット」やヘッドバンドというと、あまり個人で所有するものではないが、TVでロケ番組を制作するならお馴染みの備品でもある。
 この備品を簡単に用意できたことによって、ここまでの料理動画と違って「キャラクター本人の目線で料理する映像」(映り込む腕は声優のものなのだが)が実現している。

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 また、第1回の終わりの次回予告でも見られるように、第2回では「藤間桜の目線カメラ食品サンプル作り」も放送されていた。本物の料理ではないが、料理っぽく映る動画として見所がある。

2018/07/22 モイラのリアルガチお料理


 ようやくこのエントリのタイトルにも繋がるが、にじさんじ公式ライバー「モイラ」による初の料理生配信である。
 にじさんじの公式ライバーは元々、生配信中に紅茶をいれたりアイスを食べたりなど、「画面に映らない飲食」をしてきたのだが、その行為を料理にまで広げたのは彼女が初めてだったと思われる。

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 配信中はTシャツにジーンズ姿のモイラ様がいつも通りに表示される(背景はキッチン風)だけであり、料理の様子は音から判断できるのみ。
 料理完成後に写真をTwitterにアップする、というスタイルだった。

 ほぼASMRに近いスタイルなのだが、これが「もちがえる」コラボのカレー作りに繋がり、他のにじさんじメンバーもリアルガチ料理配信を堂々と行うようになっている。


もちがえるコラボ!カレーつくるよ!


鈴鹿詩子 お料理配信#1 ロールキャベツを作るも、うたっこたちにいちいち音が怖いと恐怖される


『015』花畑チャイコとカルボナーラ


【闇夜乃モルル】旦那さま...ご飯にする?お風呂にする?それとも...🍜ψ`( ・-・× )´↝


 ライバーの様子を映像として伝えようとするだけでなく、視聴者に「想像」させることでより実質的(バーチャル)な実在感を高めてきたにじさんじらしい配信スタイルである。

 グループ外でも同様のスタイルによる料理配信が見られるようになったが、今のところ暫定でモイラ様が最初、ということにしたい。

2018/08/11 パコの目線カメラ蕎麦打ち

 最後に紹介するのは、バーチャルアルパカ美少女VTuber「パコ」である。
 なんと、どんな機材を使用しているのかは不明だが、目線カメラによる生配信の撮影で蕎麦を打っている。


パコの生放送 #22 「蕎麦打ちしながらキズナアイ杯を応援!」


 なぜキズナアイ杯の応援で蕎麦なのかはよくわからないものの、個人(?)のVTuberで目線カメラを用いた料理配信の例はこれが初めて見たものだった。
 スペースの狭そうな調理場を映しており、「ちょっと後ろを振り向くだけで思いっ切り自室が映ってしまうのでは」というスリリングさもあって目が離せない動画になっている。

 ちなみにこの配信が行われた翌日に、ヨメミの「ドライアイス爆弾」動画が投稿されているのは奇妙な偶然だったと思う。
 リアル料理にかぎらず、「VTuberによる目線カメラ撮影」は今後可能性のある手法であるかもしれない。
 まさに「22/7計算中」でのロケ撮影がその面白さを追求しているのだが、彼女たちは声優たちがリアルの声優としても活動しているからこそロケをやりやすい、という面は確かにあるかもしれない。*3

 我々のいるリアル世界に現出するのが難しい多くのVTuberにしてみれば、自室やスタジオでの目線カメラ撮影が実現性としては高いと考えられ、そこで行える活動のひとつとして今は「料理」が選ばれているのだと言えるだろうか。

2018/09/01  宗谷いちかの知育菓子クッキング ※加筆部分


【実写練習枠】宗谷いちかの知育菓子クッキング~!!!!【宗谷いちか / あにまーれ】

2018/09/19 周防パトラのたこ焼き ※加筆部分


【2万人ありがとう企画】たこ焼き焼いてお祝いするぶいちゅっば!【周防パトラ / ハニスト】


 「宗谷いちか」「周防パトラ」の配信はセットで紹介したい。

 「有閑喫茶 あにまーれ」の宗谷いちかが「実写練習」と称して行っているのは、知育菓子「たのしいケーキやさん」の体験配信で、特徴としてはクロマキー(的な何かの技術)で作業台と指を白く飛ばすという手法が試されている。
 基本的には指がカメラに映り込まないようにハサミで掴んだりもしているのだが、白い指の輪郭が時々見えることがある。
 練習枠なだけあって映像の画質は粗く、本人が言うように「バーチャル世界から次元を超えてがんばって撮影したらこうなる」というニュアンスの映像になっていると思えばいいだろうか。

 この18日後に配信した周防パトラは、「あにまーれ」の公式ライバルグループ「HoneyStrap」所属のメンバーで、こちらは比較的鮮明な映像でたこ焼きを焼いている。
 やはりクロマキー的な何かによって、調理する手の部分を透過させているのだが、白く飛ばすのではなく透明にする、というのは結果的に見やすい映像になっていると思う。

 生身の手をそのまま映すぽんぽこや、手袋を着けるヨメミ(のダーリン)とはまた別の方向性が探られているようだ。
 こうしたワンアイディアから展開していく流れこそが、「最初に思い付いてやった人が偉い」と言うべき世界であろうと思う。

2018/12/02 シスター・クレアのローストビーフ料理教室 ※加筆部分


簡単ローストビーフ!シスター・クレアのお料理配信

 料理教室的にレシピ解説を行うスタイルは「ぽんぽこ」や「大谷さん」の前例があるが、どちらも実写合成系の映像になっていた。

 モイラ様以降のにじさんじメンバーのように、音声だけで料理の様子を配信しようとすると食材のラインナップなどを伝えにくくなるため、どちらかというと「環境音を聴かせる」ことに料理配信の主眼があったと言える。

 シスター・クレアも過去にチキンステーキやオムライスを作る配信を音声のみで行っていたのだが、このローストビーフの動画では、イラスト素材を用いて簡単な料理のプロセスを伝える工夫が付け加えられていた。

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 リアルな調理をしながら配信画面も操作しなければならないという、やや手間のかかりそうなスタイルではあるのだが、そこはローストビーフという、比較的シンプルな作業で済ませられる料理を選ぶことでやりやすくしていたと思われる。

 実際に行っているのはリアルの料理だから、その様子を伝えるなら実写になるだろうという発想とは逆のアイディアだろう。

 アイディアとしては単純なことなので、この配信以前にも誰かが行っていたかもしれない。でも例えば画面操作をアシスタントに任せるなどの分担を行えば、もっと色んな料理のレシピ解説にも応用できそうなスタイルとして注目できそうだ。

*1:当然筆者が知らないものがあれば後で付け足すので教えていただきたい。ただ、先行するVTuberとスタイルの変わらないケースだと知っていても入れない場合もある。

*2:ちなみにこれより以前だと岩本町芸能社のAR動画が2017年に確認できる。

*3:単にスマホカメラを手に持って、POV風にロケ撮影する日雇礼子のようなケースもあるが。