YAGOO最古のファンアート? ホロライブとiPhone Xの歴史確認

 日付は変わっているが、今日もインターネットでVTuber関連の調べ物をしていて、そこで気付いたことを記録してまとめようと思う(「今日調べたことをその日の内に書く」という試み)。

YAGOO最古のファンアート?

 これはホロライブの最初のタレント、ときのそらによるパタポン実況動画(2018年1月)の後に作られたファンアートだが、右側に株式会社カバーの社長(谷郷元昭氏)が描かれている。

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https://twitter.com/Tsumaguro_h/status/965537959758872576

 もしかしたらこれ以前に何かあったかもしれないが、時期的にはホロライブの1期生が成立する前、2期生の大空スバルからYAGOOと呼ばれるのとも前だ。
 株式会社カバーがVR卓球ゲームのPing Pong Leagueを開発していたこと、谷郷氏がガンダム(ロボット)好きなことなど、当時知られていた経歴から、細かいデザインを仕込まれていることも分かる。

ホロライブとバーチャルアイドルの歴史

 今日、IA 10周年プロジェクトのニュース記事を読んで思い出したことだが、ときのそらは2018年1月にIAとコラボ配信したことがある。


www.youtube.com

 今振り返って意外に思ったのは、このコラボについての記事で以下のように書かれていたことだ。

VR業界的には、この番組に配信システムとして「hololive」が採用されている点に注目(関連記事)。
https://panora.tokyo/panora.tokyo/51634/HPC-index.html

 これはホロライブ1期生のオーディションと近い時期にリリースされたiOSアプリ「ホロライブ」ではなく、それ以前のバージョンの「hololive」に繋がっている。

prtimes.jp

  • 2018年4月5日のリリース記事。現在のホロライブメンバーが用いている専用アプリに近い

prtimes.jp

  • 2017年12月21日のリリース記事

 この2017年版の「hololive」というと、2019年12月リリースのARアプリ「ホロリー」に通じるAR撮影機能の印象が強かったのだが、そもそも旧バージョンの時点からライブ配信・視聴を第一に想定したサービスだったようだ。

 その再認識に続いて、2017年12月21日のプレスリリースでさらに驚いたのが以下の追加情報だった。

・今後の予定
ゲームやアニメのキャラクター、バーチャルアイドルによるライブ配信を随時追加していきます。

・配信者募集
バーチャルアイドルとしてライブ配信してみたい方を募集しています。自分の声でのライブ配信や投稿活動の実績がある方で、都内近郊に在住で茅場町オフィスへ通える方かiPhone Xをお持ちの方が条件です。下記フォームよりご応募ください。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000030268.html

 「へぇ、ホロライブは1期生がデビューする前からアイドルを募集してたんだなー」というのは、3期生以前の現メンバーが語る「最初はアイドルになると思ってホロライブに所属してなかった」という発言と裏腹になっていて興味深い。

 もっとも、この「バーチャルアイドル募集」は難航していたのか、1期生の前にデビューしているロボ子さんの場合は12月21日のプレスリリースとは別口に募集を行っていたし、先行デビュー組の夜空メルはオーディションではなくスカウト組だったと語られている。

 夜空メルに続く1期生メンバーのオーディションが始まったのは翌年5月で、この時点ではバーチャルアイドルという言葉は使われていない。

prtimes.jp

 全員、女子高生という肩書で統一されていたのは、ときのそらが初期に「バーチャルJK」の肩書を用いていたのに合わせてるのかな? という気もするが、確か2018年に入った頃には「バーチャルYouTuber」を名乗っていた気もするから、たまたまかもしれない。

 ちなみにときのそらが「目指せアイドル」という企画を始めたのは白上フブキの初配信(6月1日)の一週間くらい前で、この頃から「歌手になりたい」という夢から「アイドルを目指すそらちゃん」というイメージがファンに共有されるようになっており、主に一二期生がその姿に憧れるという構図に繋がっていた。

 後輩が「ときのそら先輩のようなアイドル」を意識した発言をそこそこ繰り返していたのは、「事務所からアイドルになるとは全然聞かされてなかった」という証言に隠れて忘れられがちだが、グループの歴史として大事なポイントだと思う。


 余談として付け足すなら、ロボット好きとしてガンダムだけでなくマクロスシリーズも好む谷郷氏は、『マクロスプラス』や『マクロスF』の延長でキャラクターのステージをイメージしていた程度で、アイドルそのものにこだわってホロライブを始めたわけではないだろうな、と個人的には見ている。

 ちょうど数日前にゲスト出演したHOLOTALKでも「シェリル派」を公言した際、聞き手の小鳥遊キアラは理解できずに「とてもアイドルらしい存在だと思いますねー」と返していたが(※アーカイブの00:31以降)、マクロスFにおいてアイドルといえばもう一人のヒロインであるランカ・リーであって、トップシンガーや歌姫と呼ばれるシェリル・ノームをアイドル扱いしていいかというと結構微妙なのだ。


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 キアラは相手が考えていることよりも「自分が聞きたいこと(相手に言わせたいこと)」を優先して話の内容をイメージするところが若干あって、この時も「アイドルがYAGOOの夢」というイメージ通りの会話にしたかったきらいが出ていた感じはする。

 谷郷氏もAKBやハロプロの話を振られた後、運営している事務所の立場上「自分はアイドルというよりは……」とは言いにくいだろうし、「自分はシェリル派」と濁したものの、「シェリルはアイドルというより……」と反論するわけにもいかないだろうしなあ、と(勝手な想像ながら)思った場面だった。


ホロライブとiPhone Xの歴史

 次に、2017年12月21日のプレスリリースからもう一度引用すると、iPhone Xをお持ちの方が条件です」という要素があったのは今回初めて気付いた(気がする)。

・配信者募集
バーチャルアイドルとしてライブ配信してみたい方を募集しています。自分の声でのライブ配信や投稿活動の実績がある方で、都内近郊に在住で茅場町オフィスへ通える方かiPhone Xをお持ちの方が条件です。下記フォームよりご応募ください。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000030268.html

 反面、以前から知っていたのは谷郷氏がiPhone Xの発売前からAnimoji機能にしっかり注目していたという事実だ。

 iPhone Xのウンコというのは、つまりこれ↓のこと。Face Tracking with ARKitの表情認識(フェイシャルキャプチャ)技術を利用したものだ。


www.youtube.com

 そのiPhone Xの日本発売は2017年11月3日。
 さらに、ときのそらが初めて17Liveでライブ配信したのが11月16日で、谷郷氏がその手応えを12月7日のイベントで語っている
 そのイベントの発表で、注目すべきなのは以下のスマホさえあれば配信できるようなシステムも構築中」というさりげない言葉だろう。

近日中にHoloLiveのアプリを配布し、世界初のスマホARでのライブ配信を実現する。

さらにVR機器を使うのではなく、スマホさえあれば配信できるようなシステムも構築中とのこと。
https://panora.tokyo/panora.tokyo/46586/HPC-index.html

 おそらくこの時点で、iPhone XのFace Trackingを利用したフェイシャルキャプチャアプリはすでに構想済みで、12月21日の「バーチャルアイドル」募集に繋がるのだろう。

 ちなみに「にじさんじは?」というと、20日くらい後に1期生募集のプレスリリースが打たれていた。

prtimes.jp


 ホロライブの募集は難航していたのか……と前述したが、にじさんじ(旧いちから)の場合はプレスリリースの打ち方が異なるのと、「iPhoneXをお持ちでなくても構いません」と明記されている点に速度の違いが出たのかもしれない。
 相応に高級品(当時価格で10万円超)であるiPhone Xに対し、「オーディション合格者には配信用iPhoneを配布」というシステムは今となっては常識的に思えるが、単純な解決法としては旧いちからが先んじていたと言える。

 Animojiから着想を得た、にじさんじアプリの開発エピソードは以下のインタビュー記事にある。余談だが、にじさんじ1期生が「バーチャルライバー」という独自のネーミングで世に出たのは、17Live配信者の通称である「ライバー」を意識してのことだろうな、というのも17Liveへの言及から窺える。

CEOの田角が初めに考えた案が「にじさんじ」が始まったきっかけです。あるYouTuberの動画でバズったことで、当時iPhone Xで導入されたアニ文字が当時一般人レベルまで浸透していました。2017年後半や2018年前半は、「17LIVE」や「SHOWROOM」のライブ配信サービスが成功していたので、ライブ配信×投げ銭モデルがトレンドになると考えていました。そこでアニ文字とライブ配信でかけ算をしたら価値として成立するのではないかということで、事業としてスタートしました。
influencerlab.jp

 ただ、VTuberファンコミュニティで定説のように言われがちなにじさんじの成功を見て、ときのそらやロボ子さん(3Dタイプ)を運営していたカバーが2Dのホロライブへと方向転換した」というイメージは偽史に近いな、と考えられる。

 特に「YouTubeでAnimojiの動画がバズる」以前から……iPhone Xの発売前から着目し、発売日から間もなくしてライブ配信サービスと結びつける構想を始めていたというのは、VTuber歴史観を持つ上で欠くわけにもいかない、特筆すべきポイントではあるだろう。

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記事投稿後のおまけ

 これは2017年12日4日に鮮烈なデビューを果たしていた輝夜に向けた、ときのそらの初リプライ(この時は会話が成立していなかった)である。
 「holoLive」の配信システムをイベントで発表したのが12月7日だと考えると、26日時点における「社長」のテンションの高さも想像にかたくないし、「if」の存在しない歴史の重みも感じてもらえると思う。
 何かが間違っていれば、輝夜月はカバーの協力によってライブ配信を始めていたのだ。